2020年の10月15日にシェアリングデリバリー事業を専業とする出前館の決算が出ました。今後の同社の展望がかなり描かれていましたので、主要KPIを見ていきたいと思います。
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出前館の売上・営業利益・営業利益率推移
※表の単位は百万円
年度 | 売上 | 営業利益(△は損失) | 営業利益率 |
2015(実績) | 3,661 | 546 | 15% |
2016(実績) | 4,154 | 572 | 14% |
2017(実績) | 4,943 | 800 | 16% |
2018(実績) | 5,430 | 837 | 15% |
2019(実績) | 6,666 | △39 | -% |
2020(実績) | 10,306 | △2,623 | -% |
2021(計画) | 29,000 | △13,000 | -% |
2022(計画) | 60,000 | △2,000 | -% |
2023(計画) | 97,000 | 12,000 | 12% |
まずは出前館の売上・営業利益(営業損失)・営業利益率の推移です。2019年度以降に赤字になり売上が急激に伸びていますが、これはUberEatsと同様に配送代行の分野を強化したことによるものです。
そもそもUberEatsと出前館は配送者の雇用体系が異なりますが、UberEatsと同様に配送拠点への投資はかなり高コストになることが見えつつあります。
出前館のテイクレート・GMV・アクティブユーザー数・注文数(オーダー数)推移
出前館のテイクレート・GMV・アクティブユーザー数・注文数(オーダー数)推移を見ていきます。サマリとして1毎にしてみましたが、どれも綺麗な右肩上がりの実績と計画ですね。それぞれの項目ごとに詳細に確認していきましょう。
出前館のGMV推移(取扱高推移)
年度 | GMV |
2019年度(実績値) | 780億円 |
2020年度(実績値) | 1,027億円 |
2021年度(計画値) | 1,600億円 |
2022年度(計画値) | 2,500億円 |
2023年度(計画値) | 3,400億円 |
今回の出前館のIRで一番特徴的だったのが、この強気のGMVの拡大計画(それに伴う売上・営業利益の増加)です。2020年度(実績値)から約3倍の取扱高を目指す計画です。このGMVの拡大の実現に向けた戦略と言う点については後述したいと多います。
出前館のオーダー数推移
年度 | オーダー数 |
2010年度(実績値) | 636万件 |
2011年度(実績値) | 681万件 |
2012年度(実績値) | 736万件 |
2013年度(実績値) | 777万件 |
2014年度(実績値) | 887万件 |
2015年度(実績値) | 1,056万件 |
2016年度(実績値) | 1,353万件 |
2017年度(実績値) | 1,728万件 |
2018年度(実績値) | 2,332万件 |
2019年度(実績値) | 2,845万件 |
2020年度(実績値) | 3,707万件 |
出前館の注文数推移です。マーケティングコストを投下していることもあり非常に大きな伸びを示しています。最新の注文件数は3,700万回を超えとなっており、2017年以降で見ると倍にスケールしております。
ちなみに2017年度のIRでは以下のオーダー数の計画でした。
◆2017年時点での出前館のオーダー計画
2017年度 1.728万件(実績)
2018年度 2,383万件(計画=達成)
2019年度 3,442万件(計画=未達)
2020年度 4,840万件(計画を3,566万件に修正し、達成)
2018年度は達成し、2019年度は未達で2020年度は修正計画を達成しています。
この過去実績をどう捉えるかですが一定程度達成していることがUberEatsの参入により計画値を改めて、その計画は達成している点などから、LINEと提携後は何の根拠もない計画というのは出さない感じかなと個人的には思っています。
余談ですが、日次でデータが精微にとれる大手のIT系の事業計画というのは、経営企画部が膨大なデータから多くの工数をかけて作成するのが基本です。もちろん外的環境があるので全て計画通り行くものではありませんが、LINEが提携した以上、計画の段階ではかなり練ってきていると私は捉えています。
出前館のアクティブユーザー数推移・オーダー頻度の割合/分布
年度 | アクティブ会員数 | 前年比 |
2011年度(実績値) | 70万人 | – |
2012年度(実績値) | 89万人 | +19万人 |
2013年度(実績値) | 116万人 | +27万人 |
2014年度(実績値) | 135万人 | +19万人 |
2015年度(実績値) | 154万人 | +19万人 |
2016年度(実績値) | 192万人 | +38万人 |
2017年度(実績値) | 235万人 | +43万人 |
2018年度(実績値) | 269万人 | +34万人 |
2019年度(実績値) | 300万人 | +31万人 |
2020年度(実績値) | 392万人 | +92万人 |
続いて見ていくのはアクティブユーザー数の推移です。2020年度は広告費を積み増ししたこともあり大幅にユーザー数を増やすことに成功しています。このペースが今後続くのかというのが、同社の事業戦略上の大きなポイントになります。
出典:出前館IR
2018年8月期のIR資料によると、既存ユーザーの注文頻度と言う意味ではまだ向上が可能な割合だったように見えます。ダウンタウンの浜田さんを活用したCMで増えた新規ユーザーも要因としては大きいとは思いますが、この図のようにアクティブユーザーで注文頻度が少ない方の掘り起こしも行っているのではないかと推察しています。
出前館のテイクレート推移
※その他売上を考慮していないため、実際の数字とは少し異なります。
年度 | テイクレート |
2019年度(実績値) | 6.9% |
2020年度(実績値) | 9.1% |
2021年度(計画値) | 18.1% |
2022年度(計画値) | 24.0% |
2023年度(計画値) | 28.5% |
出前館のテイクレート推移です。計画値では現在9.1%のテイクレートを28%程度まで伸ばす事を計画しています。ではその根拠はどこにあるのでしょうか。
出典:出前館HP
出前館の手数料体系は「基本料金(初期費用)」+「従量料金」という構成です。従量料金の手数料ですがサービス利用料は取扱高の10%と言われています。次に決済手数料ですが3%程度が一般的です。最後に配達代行手数料ですがこれは取扱高の30%と言われています。以上をまとめますと
・サービス利用料(10%)※全店舗
・決済手数料(3%)※ネット決済時
・配送代行手数料(30%)※自前で配送できない店舗飲み
と最大で43%の手数料を取る収益モデルです。28.5%のテイクレートを単純に加重平均で考えると7割程度の配送を請け負う計算になりますが、そもそも最大で43%あり、配送代行コストはディスカウントもされにくいでしょうから、決して無理ではない水準には見えます。
出前館の1ユーザー/1注文あたりの指標
次に決算で確認した数字をユーザーあたり、注文あたりに割り算をしてみましょう。この割り算をすることで同社の数値の根拠が少しではありますが見えてきます。
1ユーザー/1注文あたりの注文金額、1ユーザーあたりの平均注文回数
1ユーザーあたりの各種指標を見ていきましょう。1ユーザーあたりの数字がまだ伸びている点が強調材料です。テレビCMで新規ユーザーが増えていると思われますので、その点から取引履歴の浅いユーザーの割合が増えますので、通常は各種指標が下がってもおかしくはないのですが、出前館は今回この数字を維持しました。
この数字はおそらく強気の事業計画の後押しになっていると思われます。
1ユーザーあたりの獲得コスト推移
次に1ユーザーあたりの獲得コストを見ていきましょう。あまり適切ではありませんがアクティブユーザーの開示しかありませんのでアクティブユーザー数が新たに投下した広告費であたりでどれくらいのコストが掛かっているかです。
1アクティブユーザーあたりの獲得コストは年々上昇しているものの2,500円程度でここ2年は推移しています。これを高いと見るか低いと見るかですが、この1アクティブユーザーというのは課金を伴っておりますので、そう考えるとそこまで高くはないのかなという印象です。
1ユーザーあたりのLTV(生涯収益)がわからないので、同社が計画しているテイクレートで今後も1ユーザーあたりの利用金額が横ばいだとした場合、1ユーザーあたりの注文金額は獲得コストを超えてきます。本来は利益で見るべきでしょうが開示がされていないので推察はここまでしかできませんが、実際のLTVなどについて中の人はわかっていますので、現在の投下コストには一定の採算があるものと思われます。
出前館の中期経営計画の達成は可能か?
出典:出前館IR
さて、ここまで見てきまして、同社が掲げる中期経営計画の達成は可能なのか?という点について考えいきたいと思います。私は競合他社を無視して、同社だけで引いた計画としては、それなりに可能性がある計画だと思っております。
出前館の中期経営計画の達成に必要な会員数は?
出前館の目標とするGMVに対して、どのくらいの会員基盤が必要なのか?という点について考えていきます。仮にユーザーあたりの購入金額が変わらないと仮定すると必要なユーザー規模は最大で1,300万人となります。
まず、計画初年度で必要なユーザー数は610万人です。現在の392万人からすると1年で210万人ほど必要になりますが、同社は今年の11月からLINEとの連携を強化します。
出典:出前館IR
LINEはユーザー数が8,400万人おりますので、そこから3%程度の顧客が誘引できれば良いという計算になります。一般論としてこの分母に対してユーザー化する割合としては、そこまで無茶な数字ではないように見えます。
最終的にはLINEユーザーの10%ほどを出前館に誘引できれば、計画の達成は可能ということになります。1商材に対して10%程度のクロスセルということ目線で見ればこちらも簡単ではないですが、無茶な数字ではない範囲かと思います。
出前館の中期経営計画の達成に必要な会員数を獲得するためのコストは?
この長期計画を達成するにあたり、最低限のコストは必要だと思います。少なくともアクティブユーザーを増やす必要があります。GMVから逆算した必要なユーザー数について、獲得コストが維持できた場合に必要な追加の費用は2021年度54億円、以降は85億円規模の投資が必要になります。
出前館の計画の達成のために必要な獲得コストは、粗利率が変わらない前提だとするとPLの中で織り込まれれているように思われます。
卵が先か鶏が先かの話になりますが、どちらかが順調に周り出せばという感じでしょうか。
出前館の中期経営計画へのリスク要因
ここまで同社の中期経営計画に良い面ばかり書いてきましたが、達成のハードルは低くはありません。正直リスクもかなりあると思います。いくつかリスクを挙げてみました。
1番大きいのは競合との競争により収益性の根拠となる数字(ユーザー数・注文単価)が悪化することです。ここは掛け算で効いてくるので、これが悪化すると業績は伸び悩むでしょう。
次に労働集約型のビジネスモデルであるという点です。配送にはコストがかります。
出典:出前館IR
一応、過去のIR資料からは直営店舗は配送代行手数料と配送コストがイーブンになった絵が描かれていますので、同社が自社で抱えないパートナー拠点とのMIXであれば、トントンまでは持ってこられるかなと推察しています。
この絵から、私は同社が将来的には配送コストと費用をトントンにマネジメントするのではないかと予想しております。(もしかしたら会計もネット表示に変えるかもしれませんね。)
出典:出前館IR
最後に市場規模のところですが、海外との比較を見てもまだ伸び代があるように思います。過去の同社のIRを見ても感じますし、総務省の統計によると1人あたりの外食費は16万円ほどとのことです。これは同社の1ユーザーの平均利用金額の2.6万円から見れば伸び代を感じさせます。
出前館の主要KPI分析のまとめ
ポジティブ目線 | 中期経営計画には一定の根拠を感じ、そこまで無理な数字は引いていない |
ネガティブ目線 | 競合も多く、ここからさらに伸ばすのは簡単ではない |
ということでまとめですが、ポジティブに考えれば全て数字で説明できる範囲の計画ではあるので、やりきれそうというふうに感じます。一方でUberEatsなどの競合や参入障壁の低さから今後も競合は増える見通しで、ここから伸ばすのは簡単ではないという目線です。
どちらも正しい目線だと思います。またコロナ禍という最大限の追い風の状況ですので、計画は3年計画ですが多分ここ1年でおおよその状況は見えてくると思いますので1年ぐらいウオッチすると個人投資家としては勉強になるかもしれません。
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