サイバーエージェントが展開するABEMA(旧AbemaTV/アベマティービー)は先行投資の側面ばかりが伝わってきます。特に投資に興味のない(決算が読めない)人たちは、先行投資の意味が理解できず「赤字」とネガティヴに表現します。
そんなABEMAですが、そろそろ黒字が近いのでは(採算は取れるのでは)?と思っておりまして、少し考えてみたいと思います。
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現在のABEMAの状況
ABEMAとは若年層をターゲットにしたインターネットテレビ局です。2016年のスタート時点では完全無料で広告モデルで事業を展開していましたが、現在は広告+月額課金+物販などといったモデル展開しております。
数字を見ても、DL数は再インストールも含むでしょうが数千万規模。週間のアクティブユーザー数も約1,400万ユーザーとなっており、国民の十数%にリーチできているメディアです。
特に、月額960円の課金ユーザー数については足元で72.9万人。今年中に100万人規模を目指しているということでいよいよABMEAの黒字化に道筋が立ってきたのでは?と予想しています。
ABEMAの黒字化はいつ?黒字化への道筋を予想する
コロナウイルスの影響を無視して、いつ頃黒字化の見通しが立つかを計算してみました。詳細については後述していますが、課金ユーザーと広告ユーザーの内訳を推計し、現在の年平均成長率50~60%の成長が維持できた場合にコスト構造が変わらなければFY21にはトントンまでは見えてくるのではないでしょうか。
詳細については後述していきます。
なお、試算には以下の書籍も参考にしています。
まずABEMAのコスト構造を確認しました
最近はABEMAのコスト構造の資料が出てきていないので、少し古い資料になりますがサイバーエージェント2016年9月期通期決算説明会資料によると、赤字をもたらしている200億円の内訳は以下の通りです。
項目 | 費用 | 筆者見解 |
コンテンツ費用(オリジナル) | 80億円 | コンテンツのストックによりコントロール可能 |
コンテンツ費用(外部) | 60億円 | 高騰リスクあり |
広告宣伝費 | 36億円 | 低減可能 |
その他 | 24億円 | 変動費部分はコントロール可能 |
まず、コンテンツの獲得に6割ほどかかっています。外部のものは身の丈にあった範囲内で対応すると思いますが基本的には高騰リスクに晒されます。一方でオリジナルコンテンツは過去分の映像が財産となってストックされていきますので、徐々にコントロールできてくると予想します。
広告費については考え方次第ですが、アプリのダウンロードから有料課金や物販の広告に充てていくでしょう。これもコントロール可能な予算になってくると思います。
その他については、変動費の部分はコントロール可能な一方でプラットフォーム手数料などは増えていくと思います。
全体感として200億円〜300億円の規模で推移すると予想しました。
次にABEMAの売上・営業利益(営業損失)推移を確認しました。
年度 | 売上 | 営業利益(損失) |
2016 | 2億円 | △99億円 |
2017 | 19億円 | △209億円 |
2018 | 63億円 | △208億円 |
2019 | 111億円 | △180億円 |
2020 | – | – |
2019年度は決算発表会の質疑の口頭の回答の数字を使っています。順調に売上を伸ばしており、営業損失が反転してきていることがわかります。
2019年度末時点で有料課金ユーザーが51.8万でした。月ごとの正確なユーザー数が開示されておりませんのであくまで推計ですが、期中は30~51.8万人のユーザーに960円課金をしていたと思われますので、売上111億円のうち40~50億円程度の売上が課金ユーザーによって占めていると推計できます。
おそらく、目先数年は課金ユーザーと広告の売上が1対1の収益構造になってくると思われます。
黒字化のポイントとなるのは月額課金ユーザー!ABEMAの月額課金ユーザーの伸びシロは?
現在の投資ペースを維持しようと思うと、月額課金ユーザーを増やしていくことが必要です。有料動画プレイヤーと比べて、どの程度ポテンシャルがあるか見ていきましょう。
(有料動画プレイヤー)
・NETFLIEX 約171万(2019年1月)
・AMAZON PRIME 約509万(2019年1月)
・スカパー 約310万(2020年3月)
先ほどの差分である約100万の有料ユーザーですが競合を見ると不可能でない水準であるとみます。AMAZON PRIMEが他のコンテンツも込みであることを考えると、スカパーの300万人規模が一つの指標になるかと考えます。
目先は200万ユーザー規模まで拡大すると推計しました。
ABEMAの広告事業の実力値は?
MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣より青い枠の会社の数値部分を引用しています。各社のユーザーあたりの広告単価は上記の通りです。ABEMAが採算が合うかどうかは、ここの単価がいくら取れるかによるところでしょう。現在のWAUは1,400万人となり、まずまずリーチできていると思われます。
広告は2019年の売上111億円から課金売上の50億円程度を除いて計算してみました。単価を見てもある程度妥当な水準まで広告が取れているように思います。
今後はテレビ局並の1,000円程度が一つの天井になるのではないでしょうか。
コロナウイルスの影響をいったん無視して、単価はWAUにまだ伸びシロがあると考え、WAUが2,000万程度になった際に単価1,000円に近い水準になると予想しました。
AbemaTVの不安は?
最後に不安点をいくつか挙げておきます。
まず、IT系での競合プレイヤー出現の可能性。これは可能性が低いと見ています。
テレビ局側でやりたそうな会社はあると思いますが、IT業界の人間からするとIT業界の広告は「Winner Takes All」で要するに独り占めの構造になりやすいです。今のダウンロード数・ユーザー認知・WAUの数字を見ると、既にこのビジネスモデルの放送局はABEMA1強で勝負付けが付きつつあるとIT業界の人間であれば結論づけると思います。
ひっくり返すにはサイバーエージェント以上の資金力が必要ですが、楽天は携帯に忙しいそうですし、YahooJapanはLINEとの統合を優先するでしょうから、ここに投資することは考えにくいです。
むしろ競合は同社が競合と位置付けていない動画配信プレイヤーです。これらの会社がAbemaのように無料モデルに舵を切ることはまずないでしょうが、コンテンツ確保という意味では最大の競合になります。NetFlixは兆単位でコンテンツ確保に投資しています。
例えば有名な話で言うと、サッカーを中心としたスポーツビジネスでは放送権の獲得競争が激化しており、有名な海外リーグでは1,000億単位の体力が必要になっています。流石にサイバーエージェントと言えども、国外のこれらの資金力には及びません。このトレンドが続くと様々なコンテンツの高騰するリスクがあります。
身の丈にあったコンテンツ投資でユーザーが引き続き引きつけられるかが今後の懸念事項に挙げられるでしょう。
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